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バンクーバーの「ヒト」に注目!第2回目、芸術家・池田学さん

   
  

バンクーバーの「ヒト」に注目!

第2回目は、世界が注目する芸術家、池田学さんです。

ikedasan1 池田さんは2011年1月から1年間、文化庁の芸術家海外研修制度でバンクーバーへ滞在し、2012年3月に再渡航されました。
2011年のニューヨーク・タイムズ紙では、その年最もインパクトを与えた8つのアートのひとつに選ばれ、今年6月から作品作りのため3年間アメリカに滞在される予定です。
幼い頃から自然と絵を描き始め、周りからのすすめもあり、東京藝術大学美術学部デザイン科に入学。卒業後2000年東京藝術大学大学院修士課程修了。アクリル顔料インクと丸ペンの繊細な線から描き出される壮大な絵は、国籍を問わず見た人に大きなインパクトを与えています。

コンピューターグラフィックス、イラストデザインなどをオーストラリア、中国でされていたYambeさんにもインタビューにご同席いただきました。


Q.最初に絵を描き始めたきっかけはなんでしたか?

きっかけというよりも、小さい時から自然に絵を描いていましたね。絵を描くことは当たり前だったので、画家になりたいと思ったことはなく、将来の夢ももちろんありました。学生の時先生に勧められ、絵の道へ自然とすすむようになっていきましたね。

Q.大学時代から画家になるまではどのようなことをされていましたか?

実は大学時代サッカー部や山岳部で部活をしたり、ひたすら遊んでいたんです。だからギャラリーに持ち込んだりする作品も手元にはありませんでしたね。そして大学4年の卒業制作で真面目に描いたら卒業時にギャラリーがつきました。僕は運が良かったのだと思います。
しかし僕の作品は1枚描き上げるにも時間がかかるので、売上だけでは食べていけません。
なので美術予備校の講師をしたり、裁判所の法廷画を描いたり、ポスターや雑誌のイラストも描きました。どれも楽しかったですよ。

Q. 絵を辞めたいと思ったり、気持ちが滅入ってしまうことはありますか?

それはないですね。実は芸術大へ行くための予備校に通っていたんです。その時でさえも面白かったですよ。大学に入ってからも、テクニックや構成、そしてえんぴつの使い方から勉強するのですが、やはり今の自分の基礎になっていますから。
参ってしまうことも特にないですね。僕は人と喋りながらでも音楽を聞きながらでも描けますし。でももちろんスランプはあるし、煮詰まる時もありますよ。

Q. 感情に左右されて絵に出てしまうことってありますか?

それも特にないですね。イライラは絵に出ないですし、落ち込んでいる時には描かないので(笑)

Q.1日に何時間ほど描いていますか?

大体8~9時間です。でも夜は1時頃までしか描きません。
徹夜もしませんし、仕事は仕事と割り切っています。
朝のんびり起きて、娘と遊んだりご飯を食べたりして、14時頃から描いて、夕ご飯を食べてスキーに行ってまた描いたり。画家って気楽だなぁ〜と思うこともありますよ。妻からも「あなたは好きなことが仕事として正当化されていいわね~」と冗談で言われることもあります(笑)

Q.心がけていることはなんですか?

ikeda2水彩画や抽象画を描いてみようかと誘惑に負けそうになることがあります。でも結局自分の絵は自分にしか描けない。
人のスタイルや表面的なものだけを汲み取っても、同じようには描けないんじゃないかと思うんです。
だから自分が得意とするスタイルを詰めていき、どんなサイズの作品でも自分の画風を込めていきたい。
そして最近は広大な空間感・でかい!をどう表現するか心がけています。
僕は人がどう思うかを考えて描いていますね。

大学でデザイン学科を出たこともあると思いますが、人にどう訴えるか優先して考えています。「自分がどう感じるか」を表現するという考え方の方も多いですが、それが強すぎると一人よがりになってしまい、見る人との距離が出てきてしまうと思うんです。
僕は自分はコレがかっこいいと思ったから、人にも同じようにように感じてほしいと思い描いています。

Q.途中で「これはちがう!」と描きなおすことはありますか?

それはないですね。端の方から少しずつ描いて横い移動していくのですが「何か違うかな?」と思ってもそれを生かしてグイグイと自由に描いていくので、特にありません。

Q.どのようにして絵を描いていくのですか?

最新作「メルトダウン」の場合は別として、基本的に僕は下書きや構成を事前に考えたりはしません。端の方からプラン無く適当に1~2ヶ月描いていき、眺めて次は何を描こうか決めます。なので1度描いたらその部分は完成なんです。そしてある程度すると作品の視点が定まってきます。
なので小さな物だと何となく描いているうちに、半分近く埋まってしまうことがあるので、最近では作品の大きさによっては構成を考えるようになりました。でも構成を考えると遊びの部分が少なくなるので楽しみは減ってしまいますね。

Q.20代にアーティストとしてしんどい思いをしたことはありますか?

特にないですね。ただ最初は小さいギャラリーについたのでお客さんが来ない…。来ても友達や親戚。もちろんありがたかったのですが、そのままではなかなかキャリアには繋がらない。
そして作品にも時間をかけている割には陽の目を見ないんですね。当時から作品を海外の人にも見て貰いたいという思いがありました。デパートの展覧会が最終ゴールはイヤだとずっと思っていました。

Q.作品を知られるようになったきっかけや工夫はありましたか?

2002年に大きい作品を描き、個展を開いたんです。そこで案内状(DM)を出すことになったんですが、そのDMの内容が特に大事だと思いました。
インパクトがあれば皆見てくれると思ったので、デザイナーさんに頼み、作品の写真を全面に使った大きなDMを作り、全国のギャラリーに送りました。もちろんギャラリーもDMをすでに作って下さっていたので揉めましたよ。そしてゴリ押しで自分で考えたDMを送った結果、大きなディーラさんがDMが気になったからと言って来て下さったんです。
その方がいらっしゃった翌日は、驚くことに来場者数が何倍にも増えました。
皆そのディーラーさんに聞いたとおっしゃるんです。2週間の展示会で最初の1週間はほとんど来ない。そのディーラーさんがいらっしゃった翌週は山のように人が来てくださったんです。
そして、これがご縁になりギャラリーを移籍しました。もしあのまま普通のDMを出していたら今の自分はいなかったでしょうね。

Q.なぜ世界中の都市からバンクーバーを選んだのですか?

都市と自然が共存しているとテレビで見たのがきっかけでした。僕の作品のテーマも人間と自然との関わりですので。次の作品を描くために1年暮らして、色々なインスピレ―ションを受けて帰ることができればと思っていた矢先に東日本大震災があり、それからは自然災害や原発問題と人間の関わりをテーマに作品を描きたいと思うようになりました。

Q.カナダに来た時の印象や一番大変だったことは何ですか?

傘を誰もさしてないのはビックリしました(笑) でも僕も最近は慣れてきたのか、近所ならフーディーでちょっと出かけるというのも増えてきましたね。
一番大変だったこと…うーん…大変なこといっぱいありますからね…やはり入国・ビザは大変ですよね。あと言葉もやはり大変です。

Q.日本とカナダでの作品製作で違いはありますか?

全く変わらないですね。ほとんど家の中で描いているので、やってることは日本と同じじゃないかと思うことがある位です。
ただ、カナダには東京よりも自然がたくさんあるので、描きたいと思うテーマはカナダの方が沢山ありますね。
画材に関しては圧倒的に東京は恵まれているので、いくつかの道具はネットショッピングで注文して日本から送ってもらっています。

Q.文化庁の芸術家海外研修制度で滞在していた時には何をしていましたか?

まず、芸術家海外研修制度を利用するためには、受け入れてくれる施設を見つけなくてはなりません。
そして知り合いからの紹介でエミリーカー造形大学のゲストアーティストとして、受け入れてもらえることになったのですが、なんとカナダに到着した時その紹介してくださった方はすでに退職していたんです。
英語もちゃんと話せないし本当に困りました。なんとか書類を学長に見せたら「あーホントだ」と部屋を割り当てられました(笑)
それからは1つのスペースを借り、1年間作品を作っていました。
もちろん不安はありました。英語もそうですし、全てにおいて新しい、不慣れな環境。毎日緊張していました。
でも日本人の先生がいらっしゃったのは心強かったですね。

Q.帰国する時や移動するときの作品の郵送は考えますか?

ギャラリーや美術館に指定されて送るのであまり考えたことはないですね。ただ作品の大きさによっては日本に送るにも20万ほどかかるし。場合によっては半分は自分で出さなくてはいけないこともあります。
美術運送なら100万円近くかかることもあるんですよ! アーティストによっては作品を飛行機のファーストクラスに乗せ、自分はエコノミーで移動する方もいますよ。それが一番安くて安全だからだそうです(笑)

Q.海外に出たいアーティストの方へのアドバイスはありますか?

tool1 特にこれと言ってはないのですが…僕は本当に運が良かった。良い人に出会ったと思います。
努力だけではなく、そういう人達との出会いやタイミングに助けられている事も大きいと思っています。
海外に住んでいても、ほとんど家で絵を描いていますし、たまにする外出がコーヒーを買いにいくといった程度だったりもして、地味そのものです。決して皆が想像するような華やかな生活ではありませんし(笑)
ただ、いい作品を作り続けていれば、それが縁のある人を呼んでくれる。作品がいろいろな世界へ連れて行ってくれる。そう思っています。
そして知識はあっても作品が追いついていない人も多くいると思います。アートをやるならまずは作品ですね。

Q.これからの目標はなんですか?

6月からアメリカのウィスコンシン州で3年かけて、今までの人生で一番大きな絵を描くので、見た方をビックリさせるような絵を描きたいです。
日本のみではなく、色々な国の人にも見てもらえるようになるためにもいい作品を作りたいですね。
それに全力で次の作品に取り組めば次に繋がるかもしれないですからね。

Meltdown1


池田さんのブログは こちら

 

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