カナダ国内の郵便・荷物配送を担うカナダポスト(Canada Post)の従業員による全国的なストライキが2025年9月25日から始まりました。影響を受けている方も多いかと思います。
この記事では、今回のストライキについての背景と影響、そしてカナダポストの財務状況などを整理して紹介します。
今回のストライキの背景について。カナダ連邦政府の改革案は?
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— CUPW (@cupw) May 23, 2025
はじめに、少しさかのぼって2025年5月、カナダポストの従業員が所属する組合 CUPW が組合員に対し、オーバータイム禁止(残業拒否)を指示しました。これにより、カナダポスト側は通常運営を維持するものの、遅延が発生することを警告していました。
CUPWは声明で、「組合は今回、社会への混乱と組合員の労働日数損失を最小限に抑えるため、時間外労働禁止を実施することを決定しました。」「これは合法的なストライキです。CUPWの全組合員はこの指示に従わなければなりません。」と記していました。
そんな一部的なストライキが引き続き行われていた中、2025年9月下旬にカナダ連邦政府がカナダポストの財務安定化と近代化推進に向けた一連の改革案を発表しました。
これには、郵便局の閉鎖、郵便配達のスピード低下、コスト削減に向けた構造変更が含まれており、郵便サービスの将来的な構造変化を強く進めたい姿勢が見られました。
- ドアツードア配達の廃止
- 緊急を要しない手紙を航空便ではなく陸路で配達
- 地方や利用者の少ない郵便局を閉鎖すること
- 財務健全化のための料金見直し
数百万世帯への戸別配達を段階的に廃止し、コミュニティメールボックス(街角に設置された集合ポスト)などの代替手段に置き換える
週5日配達の要件を緩和。カナダポストの配達基準に「柔軟性」を与える
これまで維持されてきた「郵便局閉鎖禁止のモラトリアム(1994年導入:カナダポストは法的に郵便局を閉鎖できない)」を撤廃
カナダポストに切手料金をより頻繁に引き上げる権限を与える
この提案に、組合は「不意を突かれた」「公共サービスを損なうだけ」と大きく反発し、その内容が地方・弱者への影響が大きいことや大規模な雇用喪失につながる可能性があるため、「憤慨している」と表明。
政府の改革案は「財務安定化・効率化」を優先したものですが、組合はそれを「国民へのサービス大幅な削減・雇用削減」と受け止めたようなかたちになりました。これが火種になり、9月25日から組合員は全国的なストライキに突入しました。
ストライキ中の配達は?
ストライキ期間中、郵便物・荷物の処理・配達は停止されており、一般市民から企業まで幅広く影響が出ています。全国的な混乱が収束するまで、新規の郵便物の受付もストップとなっています。
ただ、ストライキ中も引き続き、年金、カナダ児童手当などを含む政府給付の小切手(socio-economic cheques)と生きている動物(live animals)の配達は継続されています。(※生きている動物も新規輸送は受け付けていません)
既に郵便ネットワークにある荷物については、ストライキ終了後に順次配達される予定ですが、配送網の回復には時間を要する見込みです。昨年のホリデーシーズンのストライキ後の荷物や手紙の滞留量は「数百万」に上ったと報道されているので、今回もストライキ終了後の配達遅延を予想しておいた方がよさそうです。
倒産の危機?カナダポストの財務状態について
ジョエル・ライトバウンド公共事業調達大臣は、連邦政府が今年初めに運営維持のために10億ドルの資金を投入したにもかかわらず、カナダポストは1日あたり約1,000万ドルの損失を出していると述べています。組合員によるストライキ活動が拡大となり、今後カナダポストの財務状況がさらに悪化することが予想されています。
photo from canadapost-postescanada.ca
そもそもカナダポストは、時代とともに郵便物の配達量が急激に減少し、それに伴い財政難に陥っています。2024 Annual Report にも、「2024年も深刻な財務課題に直面し、倒産の危機に直面しました。郵政公社は歴史上、極めて重要な局面を迎えています。」と記されています。
以下の数字を確認してみてください。
項目(※リンク先はソース) | 数字・状況 | 補足 |
---|---|---|
累積損失額(2018〜2025年Q2) | 50億CAD超 | 2018年以降、連続赤字を計上 |
2025年Q2損失 | 4億700万CAD(税引前) | パーセル事業の落ち込みが主因 |
パーセル(小包)収益 | –36.7%(約2億8,800万CAD減) | 2025年第2四半期の小包事業の売上高が前年同期と比較して減少 |
パーセル配送量 | 約2,500万件減(–36.5%) | 2025年第2四半期の小包事業の売上高が前年同期と比較して減少 |
郵便物数(レター類) | 55億通 → 約20億通 | 2006年のピーク期が 55億通で、その後大幅減少。2006年には、各家庭が週平均7通の手紙を受け取っていたが、現在は週2通。デジタル化に伴い、この減少は今後も続くと予想されている |
市場シェア(パーセル配送) | 2019年:62% → 2024年:26.7% | 民間配送業者にシェア喪失 |
photo from canadapost-postescanada.ca
また、カナダポストは全国隅々まで配達する「ユニバーサルサービス義務(USO)」を負っており、人口が少ない地域や北部・先住民地域でも採算度外視でサービスを提供していますが、上のグラフを見ても分かる通り、配達先は年々拡大。毎年20万件以上の新規住所が追加されていて、2006年の郵便ピーク時以降、配達先の住所は330万件増加しています。
もう一方で、配達先は増えているにもかかわらずデジタル化に伴って手紙需要の急減(=売上大幅減少)という状況で、現在のビジネスモデルでは持続不可能とみられています。
photo from canadapost-postescanada.ca
さらに、Amazon・UPS・FedEx など民間業者にパーセル(小包)事業の顧客を奪われています。ここに、昨今のCUPWのストライキや残業拒否が、顧客離れを加速させている状況です。
この状況を踏まえ、マーク・カーニー首相は、カナダポストを存続可能にするためには「大幅な改革」が必要だと述べています。
財務状況などについては、CBCのこちらの動画にも詳しくまとめられているので、ぜひ確認してみてください。
組合側はどう考えているの?
CUPW は郵便、配達、物流、運輸、通信部門の 55,000 人を超えるカナダポストの労働者を代表している組合ですが、会社が赤字続きの財務状況にあるのは当然知っているはずです。しかし、自分たちの労働条件や生活の基盤がこれ以上悪化することへの強い危機感を持っていて、インフレに合わせた適正賃金、福利厚生や休暇制度の改善など求めています。また、郵便サービスの公共的意義を守ろうともしています。
CUPWの2024年11月の声明文の中には、「私たちの要求は正当なものです。公正な賃金、安全な労働条件、尊厳ある退職の権利、そして公共郵便局におけるサービスの拡大です。郵便局員は地域社会に貢献できることを誇りに思い、愛する仕事に就きたいと考えています。ストライキは最後の手段です。」と記されていました。
また、こちらのReutersの記事ではカナダポストの従業員が、「私たちは企業と政府の両方から搾取されています」「彼らは100年以上にわたりカナダの背骨となってきた組織を解体しようとしている。そんなことを許すわけにはいかない」と語っています。
まとめ
カナダポストは、今回のストライキ開始の翌日である9月26日、CUPWへの新たなグローバル提案を再検討していると発表しています。Doug Ettinger CEOは書簡で、労働状況は極めて厳しいものの、同社は交渉の場で新たな合意に達することに引き続き尽力していると述べています。
2024年のホリデーシーズンに起きたカナダポストのストライキを覚えている方も多いかと思うのですが、そのときは業務が32日間中断されました。
普段からカナダポストを利用している方は、今回のストライキで大きな影響を受けているかと思います。また、SNSを見ると、大事な書類がストライキのため届かなくなったなど、困っている方も大勢いるようです。
これから少しずつホリデーシーズンが近づく中で、カナダポストと組合の間で合意に至る日が早く来ることを願いたいですね。