《 オーコンプトワール 》のカフェ文化

   
  

「石川まりこのとっておきバンクーバー」
文・写真/石川まりこ

パリで暮らしていた時、ほぼ毎日通っていたのは街角のカフェ。どこにでもあって、朝から夜遅くまで営業していて、カフェ・オ・レにビールにワイン、サンドイッチからステーキまでなんでもあって。会話も食事も楽しめて、とにかく便利でした。

バンクーバーに引っ越してちょっと恋しかったのが、そんなパリのカフェ文化。美味しい自家焙煎コーヒーが飲めるところはたくさんあるけど、ふらっと立ち寄って、窓の外を眺めながらなんとなく時間を過ごすフレンチカフェのようなニュアンスが足りなくて。

そんな思いも遠くなり始めた2014年に、ケベック出身の友人に連れられて行ったのがキツラノにオープンしたばかりのオーコンプトワール。小さな丸いテーブルが壁際に並んでいるのも、昼間からワインを楽しむ人がカウンターにいるのも懐かしく、求めていた空気感にすごく近くて一瞬で気に入りました。

オーコンプトワール Au Comptoir とは「カウンターで」という意味の仏語。フランスのカフェでは、ゆっくりしたければテーブル席、ちょっと急いでいるならカウンター席を選び、料金もそれなりに違います。ここでは同じ料金ですが、そんな気軽な感じでどうぞという意味がこめられた店名です。

Bonjour comment ça va? とにっこり笑顔のサーバーに、すっかり錆びついたフランス語を思い出そうと一瞬焦りましたが、いやいやここはバンクーバー。英語で全然大丈夫。メニューもカナダの公用語である仏英両語です。

オーナーのマキシム Maxime Bettili とジュリアン Julien Aubin はヨーロッパ旅行で出会った友人同士で、パリの香りが感じられるカフェをバンクーバーに創ろうと意気投合。内装はほとんどふたりの手作りで、テーブルの足は昔懐かしいシンガーミシンの台だったりします。

シェフ・ダニエル Chef Daniel McGee は、フランス料理の伝統的な技法を駆使して新しい美味しさを引き出すことを心がけています。卵に野菜、シーフード、牛肉、鴨肉など中心となる食材は、すべて地元生産者から。旬の旨みを生かすために、メニューは季節で変わります。

朝食に行くなら、バゲット Tartine Beurrée は真っ先にオーダーすべし。焼きたてのフランスパンにバターと自家製ジャムを添えてくれます。

ハーブオムレツ Omelette aux Fines Herbes は卵の美味しさとクリーミーな食感が魅力。グリュイエールチーズも入っていて、シンプルなのに満足度高し。

クロックマダム Croque-Madame は、パリジャンハムとグリュイエールチーズをカントリー風のパンに重ねて、目玉焼きをのせたフレンチカフェの定番メニュー。これは卵そのものが美味しくないと成立しない料理ですね。

ランチメニューの今日のスープ Soupe du Jour がジャガイモとポロネギ leek のポタージュだったらラッキー♪ やさしくてほっとする飽きのこない味わいです。

私が毎回注文するのは鴨手羽の唐揚げ Manchons de Canard。トリュフオイルが香ばしくて、鶏手羽より大きいのに、いつの間にやら6本全部なくなってしまいます。

野菜もタンパク質もしっかり摂りたい時には、鴨のコンフィサラダ Confit de Canard en Salade がおすすめ。マスタードヴィネグレットであえた鴨肉と温野菜の上に、ポーチドエッグまで乗ってボリュームたっぷり。とろりと流れる黄身をからめてお召し上がりください。

バンズもひき肉も手作りの自家製バーガー Burger Maison には、ラクレットチーズとじっくり炒めて甘みを引き出したタマネギが乗っています。これは他ではなかなか食べられない立派なグルメバーガー。

ブランチで外せないのは、キノコのブリオッシュトースト Champignons sur Brioche。マッシュルームとホウレンソウをソテーして、焼きたてのブリオッシュトーストにのせ、そこに澄ましバターと卵黄とホワイトワインビネガーを煮詰めたベアルネーズソースをかけるという、ザ・フレンチな一品。美味しくないわけがない。

締めは深煎りフレンチローストのコーヒーで。今度はディナーに来たらフランクステーキ Bavette d’Aloyau にしようとか、いややっぱりとろけるようにやわらかな牛頬肉の煮込み Daube de Bœuf でしょとか、忙しくもにこやかに立ち働くサーバーを眺めながら、美味しい妄想は尽きないのです。

オーコンプトワール
Au Comptoir
住所:2278 West 4th Avenue, Vancouver, BC V6K 1N8
電話:604-569-2278

石川まりこトラベルライター・ツアープランナー・ツアーガイド

石川 まりこ

11歳でひとり旅を始めて、中学・高校時代は日本全国を鉄道でめぐる。19歳で初めてアメリカに行き世界の広さを実感。23歳で中国を3ヶ月旅して、多様な文化を体感。その後、海外旅行添乗員として約50か国をご案内。現在はツアープランナー、ツアーガイド、トラベルライターとして、カナダ専門旅行会社 ARA Professional Travel & Support Inc. に勤務。ツイッターフリッカーでカナダの現地情報を発信中。

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