「みなさんのお気に入りの家具って何ですか?」
第15回目の『バンクーバーのこの「ヒト」に注目!』は、2015年2月6日〜22日の期間、バンクーバーにあるギャラリー「Visual Space」で「ILLUMINATION」をテーマに作品展示会を開催中の家具デザイナーの桑原誠司 さんです。
(誠司さんと奥様でありビジネスパートナーでもあるひまりさん)
誠司さんの家具を見ると、洋風な家具にも和の雰囲気が隠れていたり、エッジーなデザインであるにもかかわらず、どこか心が「ホッ」としたりと、不思議な感覚になります。家具に対する真摯な想いや、「新しいものを生み出したい」という熱い気持ちがグッと伝わってくる内容は、家具に興味がある方はもちろん、デザイナーを目指している方、もちろんそれ以外の方も必見でございます!
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①せいじさんとバンクーバー、家具について
英語の勉強ですね。日本で幼稚園から大学までのエスカレーター式の学校に通っていたんですが、高校3年生で進路を決める際に、今の自分はぬるま湯に浸かっているような気がして「外に出たい」と思っていました。そんなときに新聞で「カナダ留学」の記事を見つけ、親にも言わず一人で説明会に行きました。とても夢がある内容で、さらに釣りやスキーなどのアクティビティー面も魅力的だったので、バンクーバー渡航を決意しました。最初は親に反対されましたが了承をもらって、1988年にはBC州のネルソンにある学校に通っていました。
カナダに来て5年後、24歳くらいの頃からでしたね。バンクーバーでいろんな友達と交流しているうちに、アートに興味を持ち始めて。自分たちでアトリエを借りて、いろんなものを創っているうちに「立体」に興味が湧いてきたんです。それでテーブルなんかを作ってみたら、友達が「いいじゃん!」と言ってくれて。「これなら自分でもやれるんじゃないか?」と思ったのがスタートでした。
(今回の展示会にて。作品名: AKARIBITO[spirit])
最初は学校に通おうと考えたのですが、学費が高かったり入学条件が厳しかったりして「自分でどうにかしないと」と思って、バンクーバーで家具を作っている方に弟子入りすることを考えたんです。その後、リッチモンドで木工職人をしているサムさん(Sam’s Woodworks) から「アシスタントが辞めたから、やる気があるなら来るか?」と言われ、1996年から仕事をしながら木工を学び始めました。最初はカンナの裏表も分からず、たくさん怒られましたね。何度も辞めようかと思いましたよ(笑)。大変だったけど、3年間サムさんの下でしっかり勉強させていただきました。
カスタムメイドの家具の場合は、お客様が「何を欲しがっていて」「どんな機能が必要で」「どういうスタイルが好きなのかお宅を拝見して」から幾つかDesignをし、その中から気に入られた物をつくります。今回のギャラリーに展示している作品の場合は、木をメインに、紙の素材の可能性を考えて「これとこれを合わせたらおもしろいんじゃないか」と、頭の中にある引き出しを開け閉めして決めました。
デザインは「こんなものがあったらいいな」というものを常に考えていたり、街中で面白いカタチの枝なんかを見つけると「その枝のラインを家具にしたいな」と、インスピレーションを受けることもありますね。
今回の展示物でもある「IVY CHAIR」でいうと、普通の椅子は作りたくなかったんです。だから「どうやったら普通じゃなくなるかな」と。そこで「足を1本にしても倒れないものを作りたい」と思い、壁に寄りかかって座れる椅子が出来上がったんです。「どこまでそぎ落とせるか」に挑戦したいと思っていて、今は「足があるようでないように見えるテーブル」を考えていたりします。
制作中は、その作品の素材の性質とデザインの美質とのバランスを熟視することを意識していますね。
(今回の展示会にて。作品名: IVY CHAIR)
②In Element Designsについて
パートナーのひまりと出合ってからですね。美意識への同じ価値観から「2人でデザインをベースにした会社をつくろう」ということになって、徐々にコレクション(定番家具や雑貨)を発表しはじめることになりました。設立前には資金調達のため、日本に出稼ぎに行ってたりもしたんですよ(笑)。約7ヶ月くらいでしたが、造り酒屋や、長野のレタス畑で働いていました。
毎回勉強になっています。一昨年はテーブルや椅子などの大きな家具を持っていったのですが配送に問題が起きたり、地元の新聞社から「取り上げたいので大きなサイズの写真が欲しい」と言われたものの、提供できる写真がなかったり。反省が多かったですね。
なので去年は「自分たちで運べるものにしよう」と思い、ランプや花瓶などの小さい家具をトランクに全部詰めて持って行きました。その展示会で、トロントのいろんなギャラリーの方から「後で連絡します」と言ってもらえましたが、実はその後一切連絡がつかなかったんです。そのとき、自分たちからもっと積極的にモーションをかけないとダメなんだと学びましたね。
(昨年の展示会の様子)
最初は何でもやらせていただいていたんですけど、今は自分のスタイルに共感してくれる方からのオーダーが多いので、自分のスタイルのものを常につくれるようになりました。日本人ということが武器になっていたりもするんです。そのおかげで、和のラインがある家具をけっこうつくらせていただきましたね。
もちろん購入していただけます。日本からのオーダーはまだないのですが、問い合わせだけならイギリスやイタリアなど世界各国からありますね。国によって好きな家具のフォルムがあるみたいで、イタリアだったら彫刻的なエレガントなテーブル、アメリカだったらカクカクしたエッジーなテーブルだったり。おもしろいですよね。
③今回の展示会について
(今回の展示会にて。作品名: AMI Bench [weaving])
「個展をやりたい」という思いはずっとあって。それで去年の秋頃にVisual Spaceのオーナーであるゆきこさん※からオファーがあり、初めてギャラリーでソロの展示会を開くことになりました。
※ゆきこさんについては前回のインタビュー記事[バンクーバーのこの「ヒト」に注目!第14回目、写真家・Yukiko Onleyさん]もご参考くださいね。
初めてつくった家具がランプで、昔はランプばかり作っていた時期があったんです。ランプを自分で担いでお店周りをしてたり(笑)。一番やりやすくて経験のあるものがランプであり、ライティングだったので、テーマを「照」にしました。ランプっていろんな顔があって、おもしろいんですよ。展示会では、ランプ以外にもベンチや椅子など様々な家具を用意しているので、是非一度見に来てください。
(今回の展示会にて。作品名: KAZE LAMP)
今回展示している「KAZE LAMP」以外は、今回のために制作しました。全部で9種類。制作には丸1ヶ月ほどかかって、搬入前日までつくっていましたね。
④最後に
(今回の展示会にて。作品名: ISU Lamp)
「KO TABLE」は、ずっとあたためて、あたためて、頭の中のいろんな方程式を試して生まれたものなので、もっともっといろんな人に知っていただきたいと思っています。
(KO TABLE)
ニューヨークのICFF(International Contemporary Furniture Fair)という北米で一番大きい家具の見本市に参加するのが、昔からの大きな目標ですね。そのためにも、もっと作品をつくって、もっと海外にも自分たちのことを発信していきたいと思っています。
(今回の展示会のポスター)
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桑原誠司さん
東京都東久留米市出身。1991年よりバンクーバー在住。独学でデザインを学び、現在は特注家具、店舗内装の制作に携わる。パートナーのひまりさんとインエレメントを2003年に設立。コレクションを広げ、海外にも顧客を増やしている。
WEB : http://www.inelement.ca
INSTAGRAM : http://instagram.com/inelement
FACEBOOK : https://www.facebook.com/InElementDesigns
Visual Space
電話番号 : (604) 559-0576
営業時間 : 今回の展示会は2015年2月22日まで 毎週火曜日~日曜日の午後12時から18時
Visual Spaceのホームページ : http://www.visualspace.ca
住所 : 3352 DUNBAR STREET VANCOUVER BC V6S 2C1
(※ダウンタウンから7番「Dunbar」のバス一本で気軽に行くことができます。)
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「誠司さんにとって家具とは?」という質問に対し、誠司さんから「ライフ」という答えが返ってきました。
この「ライフ」って、いろいろと解釈があると思うんです。家具は確かに誠司さんの生活を支えるものだし、誠司さんの人生そのものでもあり。さらに家の中を見渡すと一番身近なもの、つまりぼくたちの生活も支えてくれているものなんだな、と。誠司さんとお会いするまで家具がこんなに人間を支えてくれているものだなんて考えたことがなかったので、今回お話させていただくことができて本当に良かったと思いました。
残念ながらぼくは現在シェアハウスで生活しておりまして、”自分のお気に入りの家具”って何ひとつ持っていないんです。でも「大好きな家具たちと一緒に暮らすことってすごく幸せなことなんだろうなぁ」と、いつも思います。自分の好きな椅子に座って、自分の好きな机で書き物をして、自分の好きなキャビネットにお気に入りの本を並べて。家具を見るだけで「うふふ」って微笑みっぱなしになっちゃいそうですよね。しかもオーダーメイドの家具なら尚更!
「最高の家具」に囲まれた自分を妄想するだけでもとっても楽しいのですが(笑)、ぜひぜひみなさん今回の展示会に足を運んでみてください。写真では分からない家具の質感を実際にその目に映して欲しいと思います。例えば「KAZE LAMP」には特殊な紙を使用しているそうで、紙なのにシルクみたいな質感があったり。インタビュー中に誠司さんもおっしゃっていたのですが、素材の可能性を考えて、考え抜いて誕生したものが展示されているので、すごく見応えがありました。
ということで、ぼくもいつか誠司さんに「ぼくだけの家具」をつくってもらえるように頑張らなきゃ!と思うわけであります。もっとみなさんのお家の中にも「大好き」が増えていきますように!
それではまた。