世界中で国際結婚が増える一方で、国際離婚も増加しています。
そんな中、一方の親がもう一方の親の同意を得ることなく子どもを自分の母国へ連れ出すという国外への子どもの連れ去りに関する国際ルールを定めた「ハーグ条約」が、カナダや日本でも発効されています。
ハーグ条約は子どもが16歳未満で、元の居住国と現在いる国の両方がハーグ条約締約国である場合に適用されます。
そこで今日は、『国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約』とも言われるこのハーグ条約について詳しく解説します。
「これから国際結婚をする予定」「うちは絶対離婚しないから大丈夫」という方も、将来役立つ可能性のあることなので、ぜひ読んでみてください。
目次
●ハーグ条約締結により、居住国へ子どもを返還、親子の面会交流を国がサポートできるように
ハーグ条約は、連れ去られた子どもの利益を守ることを第一に考えようというもので、子どもを元の居住国に戻すための国際協力の仕組みが定められています。
日本も2014年にハーグ条約を締結したことで、国の助けを得て子どもを居住国へ返還することが可能になり、親子の面会交流の機会を確保することも国が支援してくれるようになりました。
なぜ原則として子どもを居住国に戻すことにしているのかというと、子どもが一方の親に急に国外に連れていかれた場合、言葉が通じないなどの環境の変化や、もう一人の親と会えなくなるといった子どもの利益が損なわれるため。
ちなみに日本では離婚後に一方の親にしか親権が認められていませんが、カナダを含めた主要先進国では、離婚後も両方の親が親権や監護権を持つ「共同親権」が採用されています。
●日本もカナダも、ハーグ条約締約国
先にも述べたように、ハーグ条約が適用されるのは、連れ去り先と連れ去り元の国の双方が、ハーグ条約の締約国である場合です。
2018年12月時点で、カナダ・アメリカを含む99か国がハーグ条約締約国となっています。(締約国一覧PDF)
この条約では、父親、母親及び子どもの国籍は関係ありません。
子どもが国境を越えて一方の親に無断で不法に連れ去られた場合は、日本人同士であっても条約が適用される可能性があります。
●ハーグ条約に基づく返還申し立ての具体例3つ
ケース1)カナダ人夫と日本人妻が、子どもと3人でカナダで暮らしている場合
夫婦の仲がこじれ、日本人の妻が夫の了承を得ずに子どもを連れて日本に帰った場合、カナダ人の夫は、日本の裁判所に子どもの返還を申し立てることが可能です。
ケース2)カナダ人夫と日本人の妻が、子どもと3人で日本で暮らしている場合
夫婦の仲がこじれ、カナダ人の夫が妻の了承を得ずに子どもを連れてカナダに帰った場合、日本人の妻は、カナダの裁判所に子どもの返還を申し立てることが可能です。
ケース3)日本人夫婦が、子どもと3人でカナダで暮らしている場合
夫婦の仲がこじれ、一方の親が片方の親の了承を得ずに子どもを日本に連れ去った場合、カナダに残された方の親は日本の裁判所に子どもの返還を申し立てることが可能です。
また、具体的な子どもの返還決定手続きの流れは、以下のようになります。外務省のハーグ条約に関するページでも確認できます。
image from 外務省|ハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)
●片方の親の同意なく子どもを国外へ連れ出すと、誘拐罪に問われることも・・
カナダの国内法では、父母のいずれもが親権または監護権を有する場合、または離婚後も子どもの親権を共同で保有する場合、他方の親の同意なく子どもを国外へ連れ出すと、誘拐罪等に問われて逮捕されることがあるので注意です。
(刑法第282、第283条:14歳未満の子の連れ去りの場合、10年以下の禁錮刑等)
実際に、カナダに住んでいる日本人の親が、他方の親の同意なく子どもを日本へ連れ出し、カナダに再渡航した際に逮捕されるというケースが発生しています。
離婚後などに他方の親の同意なく子どもを日本へ連れ出す場合は、事前に弁護士などに相談をしましょう。
●ハーグ条約で返還を拒否できる場合とは?
ハーグ条約では「子どもを元いた国(常居所地国)へ返還」することを原則としていますが、元の居住国に戻ることで子どもの心身に害悪が及ぶ危険性がある場合など、以下のような場合は返還を拒否することができます。
ハーグ条約の返還拒否事由一覧
● 連れ去りから1年以上経過した後に裁判所への申立てがされ、かつ子が新たな環境に適応している場合
● 申請者が連れ去り時に現実に監護の権利を行使していなかった場合
● 申請者が事前の同意又は事後の黙認をしていた場合
● 返還により子が心身に害悪を受け、又は他の耐え難い状態に置かれることとなる重大な危険がある場合
● 子が返還を拒み、かつ子が、その意見を考慮するに足る十分な年齢・成熟度に達している場合
● 返還の要請を受けた国における人権及び基本的自由の保護に関する基本原則により返還が認められない場合
また、ハーグ条約の実施にあたり、DV被害者に対する配慮や支援が充実しています。
外務省のハーグ条約室には、ハーグ条約に関して適切なアドバイスができる専門家が在中しているので、ハーグ条約についてもっと知りたい方は相談してみてください。
〒100-8919 東京都千代田区霞ヶ関 2-2-1 TEL: 03-5501-8466
URL: http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/hague/index.html
E-mail: hagueconventionjapan@mofa.go.jp
在外公館は、こちらの在外公館リストをご覧下さい。
●条約が発効する前の子どもの連れ去りについては、どうなる?
ハーグ条約が発効する前に起きた子どもの連れ去りには、条約に基づく子の返還は適用されないので、注意が必要です。
ただし、条約発効後の時点で親子間の面会交流が実現していなければ、面会交流を行うための支援を求めることができます。
最後に:外務省ではハーグ条約について学べる資料が多数あります
ということでいかがでしたか?
2014年に日本でも発効されたハーグ条約ですが、「まだ知らない」という方も多いはず。外務省では、ハーグ条約についての資料が多数あるので、上の動画を含めて以下のリンクもぜひチェックしてみてください。漫画もありますよ。
「自分は今は関係ない」という方もルールを把握しておいて損はないので、ハーグ条約について知らない人が周りにいたら、ぜひ教えてあげてくださいね。
PDF(日本語)
■ 子どもと海外へ行く方へ,日本へ戻る方へ(リーフレット)
PDF(日本語)
■ 海外にいるお子さんを連れ戻したい/会いたい方へ(リーフレット)
PDF(日本語)
■ 政府インターネットテレビ(動画)
国際離婚のその時 子どもを守るために ハーグ条約を知っておこう!
■ Twitterハーグ条約室
知らないうちにハーグ条約の対象となっていた,という方が少しでも減るように日々情報を発信しています。#広報 #予防 #ハーグ条約 pic.twitter.com/V9FqehVoY4
— ハーグ条約室 (@1980HaguePR) 2019年2月8日
■インターネット上での面会交流「ウェブ見まもり面会交流」紹介動画