【バンクーバーのビジネスと経済②】4年ぶりにバンクーバー開催!世界最大のCG祭典シーグラフ

   
  

バンクーバーは、夏になると「街の人口が一気に増えた!」という印象になります。それは自然豊かなバンクーバーを楽しむ観光客によるものだけでなく、毎年夏を中心にたくさんの様々な世界的カンファレンスが開催され、海外各国から多くの人が訪れているからなんです。

そして、この8月もここバンクーバーで行われた大きなカンファレンスが、世界最大のコンピューター・グラフィックスのカンファレンスシーグラフ(SIGGRAPH)です。

シーグラフ(SIGGRAPH)カンファレンスとは

シーグラフ(SIGGRAPH)とは、アメリカコンピュータ学会コンピュータグラフィック分科会が主催する国際会議・展覧会で、学術的研究、アート、教育など、あらゆるコンピューター・グラフィックに関する最先端が集結し、世界中から多くのコンピューター・グラフィック、いわゆるCG業界関係者や研究者が訪れます。

↑開催中日8月14日の会場の様子

ここで研究者により発表された最新技術は、3DCGソフトの開発に活かされるほか、ゲームや映画、個人制作のCG映像のコンクールの場にもなっており、業界関係者だけでなく多くのCGのファンも訪れる世界最大の会議と展覧会です。

毎年アメリカかカナダの都市で開催されているこのシーグラフが、今年はここバンクーバーにて2014年以来4年ぶりに開催され、1万6千人以上が参加。世界中から多くの人がこの世界最大のカンファレンスに参加するため、バンクーバーを訪れました。

またバンクーバーは、世界的にもITや映像・ゲーム制作を主軸としてデジタルコンテンツ産業が盛んな都市であるため、地元バンクーバーの企業や人々も多く参加していましたよ。

↑開催中8月15日、インタラクティブな体験ができるVRのパビリオンエリアの様子も。

ディズニー初公開VRアニメーションも展示

今回注目されている展示のひとつに、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオが初公開する、ディズニー初のVRアニメーション「Cycle(サイクル)」がありました。

Courtesy of Disney

この作品は、ディレクターであるジェフ・ギプソンさん自身の経験をもとに作られ、祖父母が長年を過ごした思い出の家をベースに、結婚してその家に住み始めてから、歳を経て養護施設へ引っ越していくまでの人生の各シーンを描いたもの。LVスタッフは、シーグラフ会場内につくられたVRに特化したパビリオンエリアへ訪れて、実際に作品を体験してきました。

ディズニー初のVRアニメーションの体験にドキドキのLVスタッフ。展示スタッフがVRの装着を手伝ってくれます。写真の右のモニターには、VRを見ているユーザーがどう見ているかも映し出されるので、同じシーンでも人によっては違う映像が見えたり。

Courtesy of Disney

このアニメーションの映像では、ギプソンさんのおじいさんおばあさんが長年住んだ家の中の同じ位置から、家の中で繰り広げられる様々なシーンを観ることができます。初めて新築の家に入る時、新婚時代、子どもが生まれた時、クリスマスの家族の思い出、子どもが成長していく時、そして家を離れる時。

わずか3〜4分のショートアニメーションですが、まるで二人の人生の様々な場面を見守る家の一部になった気持ちになり、このVRを体験した人の中には泣いている人もいましたし、実際に体験したLVスタッフの私たちも、しばらくはこの物語が心にずっと残っているような印象深い物語でした。

ディズニーが得意とする人間の純粋な絆を描いた物語を、VRという最新技術を通して体験する初の試み。今後はきっと世界中のディズニーの施設や映画でこうしたVR技術を体験できるようになるのかもしれませんね。

そして今回会場で、この作品を担当したディレクターであるギブソンさんにもこの作品についてお話をおうかがいしています。

「Cycle」ディレクター 
ジェフ・ギプソンさん(Jeff Gipson)

2013年にウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオに加入。
携わった作品には「アナと雪の女王(Frozen)」「ズートピア(Zootopia)」「モアナと伝説の海(Moana)」など。

「この作品はディズニーだけでなく、私にとっても初めてVR作品のディレクターをした作品で、とても素晴らしい経験でした。いろんな発見が出来たし、新しいアプリケーションや新しい手法などあらゆる事を手探りしながら作りあげて、チームも本当に楽しんで作りあげました。
私たちディズニーはまだTVや映画のためのアニメーションを作っていますが、これからどうVRを活用していくかはいま試行錯誤をしているところです。制作のアプリケーションやプログラム言語も違います。また観る人とアニメーションの近さが違いますし、それが観る人の感情に作用するインパクトも違います。その違いの中からいろんな発見をしていく事にとてもワクワクしています。
この作品が公開されるのは、このシーグラフが今回初めてなんですが、この3分ほどの短いアニメーションの中で、人々が映像に感情的にコネクトしている様子を見て、とても感銘を受けています。とてもクールな事で、これからのVRの可能性がより楽しみに思います。」

日本から多くの企業や団体、人々が訪問

このシーグラフのカンファレンスには、毎年世界中から多くの人が訪れますが、日本からもたくさんの映像技術の研究者、クリエイター、企業や団体が参加します。
今年も日本からバンクーバーへたくさんの方たちが訪れていましたので、今回の訪問目的やバンクーバーの都市の印象などについてコメントをいただきました。

東京大学 先端科学技術センター 
稲見 昌彦教授

VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、またロボット工学技術を用い、福祉的な面で体の不自由を助けるなどのほか、攻殻機動隊やガンダム、ドラえもんなどに出てくるような生身の人間を超えるような能力を工学的に引き出す研究を行っている。身体情報学分野の専門家。

シーグラフには学術機関だけでなく世界中から多くのメディアや企業も集まります。そのような場で我々の研究の内容や成果を発表・紹介する事が主な目的ですが、実用化の推進や、研究の発表によって、世の中からの見え方を変えようという事も参加の理由です。
日本だけでは注目が集まらなかったものでも、このシーグラフで紹介し、海外メディアからも注目された研究もあり非常に大きな成果がありました。
目と眉毛で感情を表現するロボット「SEER」
また、シーグラフでは様々な技術やエンターテイメントにも触れることができますが、今回注目のイベントはElectoric Thertreですね、素晴らしかったです。
今回のバンクーバー滞在ではUBCを訪問でき、ロボット工学を研究するカロン・マクリーン教授に会えたことも成果でした。何回かバンクーバーには来てるのですが、やっと初めてプーティンを食べました。時差ボケの頭に強い刺激をもらいました(笑)日本食が非常に多くなっていて、山頭火のバンクーバー限定の担々麺が美味しかったですね!

モデリングカフェ(Modeling Cafe)
岸本浩一さん

得意だったキャラクターモデリング技術から、モデリングやコンセプトアートに特化したCG制作スタジオ、モデリングカフェを仲間数名とともに2012年創設。現在モデリングカフェは、モデリングに特化したプロダクションとして業界の注目を得、国内外の様々な映画やCM、ゲーム、デジタル造形などの作品に参加。東京・福岡・バンクーバーに制作拠点をかまえている。

バンクーバーには、シーグラフのタイミングに合わせModelingCafeバンクーバーオフィスの視察や案件の営業で訪問しました。昨今、CGを取り巻く環境の変化が激しく、シーグラフで最新のトレンドや、世界の中での立ち位置を俯瞰して見ることができました。
今回、メキシコ人の友人に紹介してもらった外国人クリエイターや、バンクーバーで活躍されている日本人クリエイターの方々にもお会いすることができました。バンクーバーの映像業界は日本と比べて短期の契約が多いため、人材の流動性が高く、プロフェッショナルな雰囲気を感じます。
今回は山火事の煙でバンクーバーの澄んだ空気が見れなかったので、遠くないうちにまた来たいと思います!

福岡市 経済観光文化局
水野壮人さん・長内典行さん

水野さんは大阪・東京にて国内航空会社の総合職として客室・人事を、長内さんは東京・福岡にて台湾系企業や電機メーカー、北京にて広告代理店などで営業職に従事。現在は両人とも福岡市の企業誘致課にて、外資系企業の誘致を担当。法人設立にかかるサポート行うほか、海外にて福岡市のビジネス環境のPR活動を行っている。(写真左・水野さん/右・長内さん)

今回は4年ぶりの訪問で,福岡市に企業・大学・カナダ政府・BC州政府を加えた「チームFukuoka」として活動しました。主な活動は、シーグラフ参加、現地企業とのビジネスマッチング、デジタルコンテンツ関連企業・団体の訪問・施設見学、福岡市投資誘致説明会及びFukuoka Night(福岡市のPRイベント)の開催などです。
現地関係者の多大なる協力により多くの企業、教育機関などを訪問できましたし、Fukuoka Nightではバンクーバーで活躍する多くの日本人にお会いでき、中には「福岡に移住したい!」「福岡でイベントやりたい!」など熱い声を聞くことができたのは大きな収穫でした。バンクーバーは気候も人も街の雰囲気も全体的に穏やかで、とにかく過ごしやすい街でした。また来たいです!

空気株式会社(KOO-KI)
木綿達史さん

国内外で様々な賞を受賞する福岡拠点の映像制作スタジオ、KOO-KIのCEO兼ディレクター。1997年にKOO-KI設立から携わり、CM/MV/ゲームオープニング/番組パッケージ/サイネージなど、映像全般のディレクションを行う。代表作は、中田ヤスタカWhite Cube(MV)、平井堅 切手のないおくりもの(MV)、マルイ マルコとマルオの7日間(TVCM)、TOYOTA Netz(モーションロゴ)など。そのほかTEDx Fukuokaでのプレゼンを行うなど、精力的に活動。監督を務めたショートアニメシリーズ「SUSHI POLICE(スシポリス)」は、2016年1月よりO.A.され反響を呼んだ。

今年、僕たちは海外マーケットに挑戦するために、ヨーロッパ、北米、アジアのさまざまな都市を回っています。バンクーバーでもいくつかの広告代理店からお話をうかがうことが出来ました。カナダの広告の中心はトロントだということでしたが、わざわざ遠く離れた場所に仕事を依頼してもらうためにどう特徴を出すのか、という点は福岡を拠点とする僕たちととても似ています。適当にやっていては生き残れませんので自然と競争力があがりますし、逆に都会のスピードに流されすぎずに落ち着いてものづくりが出来るのはとても良い点だと思います。
映像クリエイティブという視点でも、有名なCGやVFXのスタジオがたくさんあり世界中から腕の良いクリエイターが集まっています。ぜひ一度コラボレーションしてみたいです。違う地域のクリエイティブが混ざり合い新しいものを生み出す可能性があるのも、僕たちが海外を回るもうひとつの理由です。
とにかく皆さんフレンドリーで快く迎えてくれたのがありがたかったです。街から感じる雰囲気もとても良いですし、バンクーバーで仕事を実現して必ずまた訪れたいです。

次回のシーグラフ開催は東京のアジア版


© 2018 ACM SIGGRAPH

シーグラフのカンファレンスは、今年の12月にアジア版が東京で開催され、北米版とはまた違った企業や団体、研究者や研究機関、エンジニアやアーティストが参加します。
今回バンクーバーで開催されたシーグラフ同様に、VR/ARイベントなど体験型のイベント展示も数多く行われる予定とのことなので、ぜひこれからの最新技術を体験したい方や将来コンピューター・グラフィック業界へ進みたい方も注目してみてくださいね。

シーグラフアジア2018開催概要
会期: 2018年12月4日(火)~7日(金)
カンファレンス: 12月4日~7日、展示会: 12月5日~7日
会場: 東京国際フォーラム(東京都千代田区)
主催: ACM SIGGRAPH
運営: ケルンメッセ(Koelnmesse)
Web: https://sa2018.siggraph.org/jp/
https://www.flickr.com/photos/siggraphconferences/with/43972045622/

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